耳に痛いアラームを乱暴に止めて起き上がった。早朝帰ってきて寝たはいいが、午後から予定があるせいで満足に眠ることもできない。腫れぼったい瞼を無理やり開いて、とりあえず眼を覚ますためにシャワーを浴びに行った。
 肩に熱いくらいのシャワーを浴びながら、猫のことを考えていた。マンションの階段の途中、踊り場になっているところで泡を吹いて死んでいた猫だ。あれは夢だったのだろうか。グレーと白の縞々の猫。横向きになって、腕も足も伸ばして、尻尾をだらりと曲げたまま動かない猫。朝の太陽はその死体を注意深く避けるように低い角度の光を投げかけ、薄い都会のスモッグが周りに煙っていた。
 動かない猫の姿態は、朝食を摂る間も、服を選ぶ間も、ずっと俺の意識にとりついて離れなかった。やがて、6時間だけ過ごしたわが部屋を後にする時間になった。鍵を回し、ドアを閉め、階段を下りる。
 いない。猫はいなかった。
 何の痕跡もなかった。猫の死体があったかもしれない場所は陽光に暖められ、もう外には初秋のぬくもりが満ちていた。
 それきり、俺はその猫のことを忘れてしまった。


文責:えっぴ〜